前橋地方裁判所 昭和24年(行)28号 判決
原告 中村卓郎
被告 白沢村長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年七月二十五日原告に対し発した白沢村収入役を退職すべき旨の命令は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めると申し立てた。
三、事 実
原告は利根郡白沢村収入役であり、被告は、同村村長である原告は昭和二十一年五月八日右収入役に就任して以来、何等の事故なくして今日に及んだものであるが、被告は、昭和二十四年六月二十日頃原告に対し辞職を勧告し、もし自発的に辞表を提出しないときは免職するとのことであつたので、原告は、やむを得ず同月二十七日辞職願を被告に提出した。ところが白沢村村会が同年七月十二日原告は辞職するに及ばぬとの議決をした。そこで原告は同日口頭を以て被告に対し辞意を撤回し、各村会議員に対しては文書を以てその旨を通知した。被告は原告が辞意を撤回したについて、原告がさきに提出した辞職願は、自宅にあるから後日返還するとのことであつた。然るに被告は無法にも既に反古に帰した右辞職願に基いて、同月二十五日原告に退職命令の辞令を交付した。しかし前述の如く原告が辞意を撤回したことによつて、右辞職願はすでに失効したものであり、従つてこれに基いて発せられた右退職命令は、原告の意思によらないで発せられたものであつて無効である。よつてここに原告は右退職命令の無効なることの確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告主張事実中原告が一旦退職命令を受け取つた後これを郵便で返還したことは認めると述べ、立証として証人松井稔、同小野義家の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、被告が白沢村村長であること、原告がその主張の日時白沢村収入役に就任したこと、被告から昭和二十四年六月二十日頃原告に対し辞職の勧告をし、同月二十七日原告が被告に辞職願を提出したこと、白沢村村会が同年七月十二日原告は辞職するに及ばないとの議決をしたこと、被告が同月二十五日原告に対し退職命令の辞令を交付したことは、いずれもこれを認める。原告が村会の右議決後辞意を撤回した旨を各村会議員に文書で通知したことは知らない。その余の事実はこれを否認する。原告は白沢村監査委員の監査の結果収入役としての事務成績が不良であつたので、被告は原告に辞職を勧告したのである。而して原告は昭和二十四年七月二十五日被告から退職命令の辞令を受け取つたにもかかわらず、同月二十七日郵便でこれを返還して来たのであると述べ、立証として乙第一、二号証を提出し、証人鳥山鳴、同中村重勝の証言を援用した。
四、理 由
原告が昭和二十一年五月八日利根郡白沢村収入役に就任したこと、被告が同村村長であること、被告が昭和二十四年六月二十日頃原告に対し辞職の勧告をし、同月二十七日原告が被告に辞職願を提出したこと、その後同年七月十二日白沢村村会が、原告は辞職するに及ばない旨の議決をしたこと、原告が被告から一旦退職命令の辞令を受け取つた後、郵便でこれを返送したことは、いずれも当時者間に争がない。右争ない事実に、成立に争ない乙第一、二号証、証人鳥山鳴、同中村重勝、同松井稔(一部)、同小野義家(一部)の各証言、原告本人尋問の結果(一部)を併せ考えれば、被告が昭和二十四年四月頃白沢村長に就任し、同村監査委員中村重勝、同中村哲夫において同年五月十六日から約二週間に亘つて同村収入役たる原告の事務を監査したところ、その事務状况が良好でなかつたところから、原告は被告から同年六月二十日頃辞職の勧告を受けたので、その進退につき、懇親の間柄である前記中村重勝に相談したところ、同人から辞職することを婉曲に勧められた結果、辞職することを決意し、同人方で辞職願(乙第二号証)を書き、同月下旬頃被告に右辞職願を提出した。そこで被告は同年七月十二日原告の辞職につき村会に諮つたところ、村会では二、三の反対はあつたが結局原告は辞職するに及ばない旨の決議がなされ、右決議後同日原告は、白沢村役場応接室で被告も同席して、村会議長、同副議長から村会の右決議の報らせを受け、留任を勧められた。ところがその後原告は同月二十五日被告から封筒に入つた退職命令の辞令の交付を受けた。その際原告は右文書が退職命令の辞令であることを知りながら一旦これを受け取つたが、その後郵便を以て右辞令を被告に返送した。以上の事実か認められる。原告は村会の辞職するに及ばぬとの議決により、右議決の日辞意を撤回した旨主張するけれども、原告がその後同月二十五日何等異議をとどめることなくして被告から退職命令の辞令を受け取つた点から考察すると、未だ原告の主張するが如き辞意の撤回があつたものとは認められない。然らば原告は前記認定の如く被告に辞職願を提出して辞職の意思表示をし、これが任命権を有する村長たる被告により承認されて、右退職命令が発せられたのであるから、右退職命令は原告の辞職の意思に基いて発せられたものであつて、有効なものといはなければならない。従つて原告が右退職命令を受け取つた後に、これを被告に返還しても何等右退職命令の効力を左右し得るものでないことは勿論である。
よつて原告の本訴請求は理由がないこと明らかであるから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文の通り判決した。
(裁判官 奧田嘉治 黒沢信夫 中島武雄)